3.世界大会日本代表までの軌跡
渡部:
やっぱり最初は初心者なわけじゃないですか。初心者から学生選手権優勝、そして日本代表選手のキャプテンと、見たことも経験したこともない大舞台へと上がっていく。その成長に伴って、どんな心境の変化や実感があるのか、ぜひお聞きしたいです。
林さん:
まず大学時代は、競技も救助活動も両方一緒にやっていましたけど、「海岸で活動して練習してたら、知らないうちに強くなっていた」という感じですね。今考えてみれば、ですけど。
渡部:
じゃあ、「ただ毎日の練習を一生懸命に」という感じですね。やっぱりその時々を一生懸命にやることが一番ですかね?
林さん:
そうですね。最初はもう何も知らないで入って、「先輩たちかっこいいなあ」と憧れて、筋力トレーニングをして身体を大きくしたり、一生懸命練習していました。それが試合に出てみたら1年生なのに入賞できて、「意外といいとこいったな」って、びっくりしましたね。
渡部:
2年生になって、おもしろいなと思い始めたのは、どうしてですか?
林さん:
後輩も入ってきて、メンバーも新しくなって、先輩になるとできることも増えてきますしね。比較的自分の考えているやりたいことができるようになってきて。
渡部:
なるほど。訓練以外に、運営面での楽しさも増えますもんね。サークルもそうですしね。学生選手権の時には、林さんはもう注目されていたんですか?学生選手権って、そもそも誰でも出られる大会ではないですよね?
林さん:
大学の選抜チームが出ますね。学内にチームが多ければ、セレクションするわけですけど、拓殖大学は人数が少なかったですから、わりとすんなり出してもらえました。「お前、泳げるんだから、行けよ」って感じで。ただ学生選手権に出たのは4年生の時でしたから、就職活動でもう内定が出ていて、学生選手権が最後だなって思って出ましたね。
渡部:
へえ。では、「就職したら、もうライフセービングはお休みだな」と?
林さん:
「もう無理かな」と思いましたね。ただ、幸いにも優勝してしまって、その年の12月には選考対象選手になってしまって。まさかトップチームに入って、ライフセービングを続けることになるなんて、思ってもみなかったですね。
渡部:
「就職が決まっているけど、優勝したからには続けたいな、どうするか?」と悩みました?
林さん:
6人しか選ばれないんですが、当時のトップチームの皆さんを見ると、自分が選ばれる理由がなかったですね。ただ出会いに恵まれてというか、選考委員の方で自分を買ってくれている人がいて。
渡部:
きっと、将来性を見込まれていたんですね。林さんはもっともっと伸びるぞって。
林さん:
将来性でしょうかね。チームで、他の皆さんがすごかったですから。ここから、本格的にライフセービングの世界へと、就職した会社を辞めて、それから3年間くらいフリーでやって、そして今の総合警備ですね。
渡部:
では3年間は、ライフセービング漬けですか?
林さん:
そうですね、色々と転々としながら、バイトもしながら、ですけど。
渡部:
バイトも、ですか?トップチームというと、スポンサーがいて、もうライフセービング漬けになって、世界各地でトレーニングしたり合宿しているのかと。
林さん:
マイナー・スポーツなので。ライフセービングと言っても、救助活動もあれば競技もありますので、どっちをメインにするかという問題もありますし、スポンサーがどういう風に評価するかという部分もあるので。
渡部:
でも、段々大きな舞台へと上がっていく自分というのは、どんな感じなんですか?
林さん:
最初トップチームに入った時は、自分に自信が持てなかったですね。当時はまだ3位や2位が多くて、優勝がなかったんです。でもその時のチームのキャプテンが強烈な人で、「理由はなんにしろ、選ばれたんだから自信持ってやれよ」と。で、会社を辞める時にも相談をしたんですけど、「救助活動とかボランティアでは食べていけないので、まずは競技で日本一になれ。優勝してから、スポンサーだとかそういう話が来るんだから、頑張るしかねえんだよ」って言われて。
渡部:
そうか、大会というのは、ライフセービングの中でもスポーツの部分ですもんね。
林さん:
ええ。「優勝してから、スポンサーだとかそういう話が来るんだから、頑張るしかねえんだよ」って言われて。バイトも、色々と話を聞いてくれるところを探しました。
渡部:
そうですよね。フルタイムで週5日では、トレーニングできないですもんね。
林さん:
そうですね。だから遅晩にしてもらって朝練習するとか。オープン前のプールをお願いして借りて練習するとか。
渡部:
そういうお願いに行くのも、自分の足でですから、大変だったでしょうね。
林さん:
ええ。色々なコーチの方に相談しながら、ですけどね。
渡部:
「先輩の紹介で」とHPに書いてありましたけど、では総合警備保障さんに就職できたのは本当に助かったんですね。
林さん:
ええ。最初はなかなか理解してもらえなかったですけど、「やりたい」って思いを伝えるうちに、温かいご理解を頂けて。野球やサッカーと違って、なかなかイメージが湧きにくいスポーツで、プロだと言っていても、なかなか自己満足の域を出ないというか。もちろん自分はやっているので、自信もありますし、伝えもするんですけど、社会性を考えた時に勘違いしないようにというか。
渡部:
「勘違いしないように」というのは、「謙虚に」という自分への戒めですよね?
林さん:
そうですね。まあ、強くなればいいんですけど。ただ、働きながらという今の環境は、自分にとっていい環境ですね。働かせてもらって、ありがたいですね。
渡部:
やっぱり壮行会とか、ありますよねえ?スーツ着て、華やかな世界を想像してしまうんですけど、どんな感じでしょう?楽しいですよね?あ、でも大会前だから楽しいはおかしいか。
林さん:
そうですね。唯一評価してもらえる機会というか、まあ気分は引き締まりますよね。
渡部:
それによって日常生活で変わったことって、ないですか?
林さん:
そうですねえ。特にないですけど、意識が強くなりましたね。「今はこれしかないぞ」っていう。
渡部:
意識の強さが、やっぱり上達の一番の秘訣ですかね?
林さん:
そうですね。向上心と、あとは単純に楽しいからですね。楽しさの追求が、向上心になるんだと思います。単純に、波に乗るのが楽しいとか。
渡部:
今、思い出しましたよ。僕は高校の後半は陸上部で5,000メートルの選手でしたが、最初は「走ってて何が楽しいんだろう?」って、自分でもわからなかったですね。
林さん:
ははは。
渡部:
練習も筋トレも少しありましたけど、長距離はあまり筋トレいらないって言われたので、基本は走るだけなんですよね。でも続けているうちに、なんだかうまく言えないけど、走るのも楽しいってわかって、不思議な感じでしたね。そうすると作戦立てたり、目標を持って練習したり、楽しさと向上心が出てきますね。
林さん:
そうですね。機材を使うためには、技術力をあげなくちゃいけないとか。あとは、すごい技をやっている人を見て、「すげえな。あれやってみてえな」と思ったら、それをやるためには、パドル力を付けてとか、体重移動を覚えてとか、で、その身体を支えるためには走らなきゃいけないとか。それがどんどん積み重なっていって、世界選手権とかに出て行くと、外国人選手たちがこういうトレーニングをやっているとか聞いて、それを取り入れたりとか。徐々に意識が高くなっていきます。