3.わずか6店舗から羽ばたいた「いなげ逸品」、意地とプライドをかけて
若井さん:
一昨々年の夏ごろに千葉市産業振興財団から連絡がありまして、「逸品の第一人者で、全国各地で商店街のコンサルタントをされている太田先生という人がいるけれども、お話を聞いてみませんか?」とお誘い頂きました。
渡部:
千葉市産業振興財団から商店街にお誘いがあったのが、きっかけだったのですね。
若井さん:
そう、お誘いがありました。しかも机上のことやハードに関する部分のことしか言わないコンサルタントが多い中で、「今回の太田先生は違う」とお聞きしましたので、とりあえずお話を聞いてみたいと思いました。公民館で、太田先生が3回、説明会を開いてくれることになりましたので、商店街に加盟しているかを問わず、三叉路から14号線までの間のお店全部に、「こういうのがありますけど、説明会にいらっしゃいませんか?」と声をお掛けして、パンフレットを配りました。
渡部:
説明会はどんな内容だったのですか?皆さん、参加してくれました?
若井さん:
稲毛商店街振興組合には、今32店舗加盟していますが、第1回は40店舗以上、第2回は約20店舗、参加してくれました。全国各地で逸品に取り組む様子をスライドで見せてくれたり、「逸品とはこういうものだ」という説明がありました。
渡部:
すごいですね!振興組合の全加盟店数を大きく上回る参加者がいたのですから、逸品という取組みに対して、皆さんの興味は高かったのでしょうね。
海宝さん:
そうですね。商店街に加盟していないお店も、本当によく出てくれましたね。
若井さん:
ただ、説明会が終わった17年1月頃、今度は逸品研究会という勉強会が始まり、「実際に、どんなものが逸品にふさわしいか」を考えました。参加店同士でお互いのお店に行って逸品を選ぶ中で、参加店がどんどん減って、夏ごろには6店舗になってしまった。
渡部:
逸品の趣旨に賛同した店舗が、逸品を選び出す段階で抜けてしまったのは、なぜなのでしょう?日常業務で精一杯だったのか、それとも自分のお店や商品を見てもらって、色々と言われるのが辛かったのでしょうか?
若井さん:
見てもらうのは良いけど、見に行くのが、面倒くさいのだね。
加藤さん:
そう。見てもらうのでなくて、行くのが、だよね。
海宝さん:
皆、説明会には来るんです。そして「とってもいいね」と言う。だって自分の商品を皆自信を持って売っているのに、それを表現する術を知らなかったわけだから。でも逸品でそれが表現できるとわかっていても、実際にやるには大変な過程があるからね。
若井さん:
自分のお店の逸品を見つける作業だけでも、結局は自分の商品の見つめ直しになるわけだから、大変な作業です。
(開会のご挨拶をする、稲毛園の海宝さん。この後ハッピ姿で「浜のごちそう」を披露。) | (逸品の第一人者として、全国の商店街を駆け巡る太田先生。プレフェアでも親切に色々と教えてくださる。) |
渡部:
6店舗になってしまって、実際にどんな風に悩みましたか? 6店だと何が厳しいのかも、もう少し聞かせてもらえますか?
若井さん:
やっぱり数が少ないことだね。例えばチラシ作るのでも、6人と17人では、予算の負担が全然違うよね。スタンプラリーなどのイベントも含めて、全ての面で難しい。夏を過ぎて「6店舗でフェアができるだろうか」と、皆で腹を括って話をしました。
海宝さん:
でも、やっぱり自分達がやってきた成果を、お客様に知ってもらいたいという強い思いがあった。そしてちょうどその時、日本で最初に逸品に取り組んだ呉服町の商店街は、初年度8店8品で始めた話を聞いたのです。 『参加店の追加募集について』6店舗ではフェア開催は無理。だが呉服町の商店街は、8店8品で始まった。どうするか?(当時の話し合い資料より)
渡部:
8店8品で、ですか。希望が出てきますね!
海宝さん:
「それなら6店6品でも、やっちゃおうよ!そして逸品にする商品には、それなりの価値を求めることに妥協せず、追加募集をしよう」と、この気持ちでまとまりました。各お店にふさわしい逸品商品を提案しながら、参加のお願いをしました。研究会に出ず、フェアに出てしまう不満もあったけど、17店が参加してくれて、嬉しかったですね。
若井さん:
太田先生も、「1年間通してやる研究会に8割以上出席したお店でないと、フェアには出られませんよ」と言っていましたし。
加藤さん:
「忙しいのは皆同じ。時間は自分で確保するものだから、1〜2回は出られない時があっても、8割以上出席できない理由には認めません」と言っていました。
渡部:
本当にその通りですよね。時間は作るものだし、それを調整して確保するのも自己管理です。そしてそれができるのは、やっぱり夢や目標への強い思いがあるからだと思います。自分の逸品を生み出すのも大変なのに、他のお店の逸品の提案もして、とても苦しい状況でしたけど、妥協せずに、本当にやり抜いて、今につながっていますよね?
若井さん:
やっぱり意地もあるし、「せっかくやってきたのだから」という思いもありますから、色々なことを言われながらもやり抜きましたね。ただ研究会が大事だから、「研究会推奨」のシールを商品に貼れるお店だけは、6店舗に限定したのです。
海宝さん:
そうですね。本当に。妥協は一切しなかった。そして、前回追加募集でも、今回は研究会から参加してくれたり、前回フェアを見て「花らんぷ」さんが参加してくれた。フェア開催で商店街に注目が集まって、「参加してみたいな」というお店が出てきてくれたら、これが僕らにとって嬉しいことであり、大切なことなのです。